D2Cアパレルブランドを経営したいあなたへ
将来は服屋さんになりたい──。
もしそういった想いを描いているとしたら、今は本当によい時代になったと思います。
かくいう私も、趣味で市販の型紙から服をつくるような素人からのスタートで、服飾の専門学校を出たわけでもありません。
ただ、一度だけ個人でレッスンをしてくれるデザイナーさんのもとへ通って勉強したことがあります。通ったのは数回ほどでしたが、その時に言われたことがとても印象的でした。
「あなたは現場を知っているから、飲み込みが早いわね」
知識を学ぶために専門学校へ行ったこともなければ、仕事としてアパレルブランドの店舗に立ったこともありません。その代わり、たくさんたくさん服の買い物はしました。
真剣に選び、試着も何度も繰り返すので、店員さんとも仲良くなり、色々なことを教えてもらいました。消費者のひとりとして、たくさんの現場を見てきました。何より趣味とはいえ、たくさんの服を作ってきました。
昔はそれが仕事につながることは稀だったかもしれませんが、今は時代的にそういった経験を生かしてクリエイターに転換できる時代です。
ECサイトというオンライン上の店舗だけを持ち、自ら企画・デザインをおこない、工場でパターンを起こしてもらいサンプルを作る。在庫を小ロットで用意し、マーケティングを考えながら販売。そして出荷をする。
小さなアパレルD2Cブランドがスタートしやすい世の中になりました。
「将来、服屋さんになりたい」
子どもの頃、そう願った夢は、本当に叶いやすくなったと思います。
この記事では、未経験からアパレルブランドを持つまでの流れのなかで、大きな潮目となる「個人事業者から経営に入る瞬間」に焦点を当ててお話をしたいと思います。
どのタイミングで、ハンドメイドで作品をつくる個人から、人を雇い、工場に依頼し、自分が経営に専念できるのか。実体験をもとにお伝えします。
目次
現場を離れることができたのは5年目の秋だった

2020年の春。私はもう自分では縫わない決断しましたが、コロナの影響で想定以上にECサイトからの売上が伸び、夏を迎える頃にはさすがに自分も現場に立つ必要性に迫られました。
そして秋を迎えひと段落をついたとき、改めてスタッフの前で宣言をしました。「今度こそ、私はもう縫いません…!」
そもそも服を作ることが好きで始まったこの事業ですが、おかげさまで売れるようになり、縫い手を増やし、工場に頼み…。そうしているうちにやるべきことが増えていきました。
作るだけでなく、マーケティングの企画や実行の時間も必要になりました。
その結果、Mauve pink の今後をより良くするために、一番大切なことである「考えること」の優先順位を上げることにしたんです。
正直そこについては、独立から2~3年目の時点で思うようになってはいましたが、やりたくてもできない理由もありました。
なぜなら、自分が現場には立たず経営に専念するためには、「売上」が土台として必要だったからです。
売上が十分にあるからこそ、経営者へと舵を切ることができました。ここでいう経営とは、人を配置し、その人たちが気持ちよくもっとも最適に働けるようにマネジメントすることを指します。
現場でのプレーヤーを離れるときが、売上を伸ばし続けていると、どこかのタイミングで必ずやってきます。
それが私にとって、独立から5年目の秋だったのです。
縫製現場を離れるには「自信」が必要

まったく縫製の現場に立つことなく、アパレルブランドの経営者になる人もいます。そもそも服を縫ったことが一度もない人が経営者になることだった多々あると思います。
でも私の場合は、まずは現場からスタートさせるパターンでした。それゆえに、どのタイミングで人に任せるようにするかは悩みました。
「私が現場に立たないとクオリティを保てないのでは…」
そういった不安があったからです。
でもいま自信をもって経営に専念できるのには、経済的な基盤があるということのほかに、あと2つの理由があります
1. 自分が縫わないほうが質が上がる
ひとつめの理由は、シンプルに、自分よりも縫製技術の高い人たちがスタッフのなかに現れ始めるからです。
今では私が現場で縫っていると「もっとこうしたほうがいい」と技術面で怒られるというか、指導されてしまうケースも増えてきました(笑)。
でもそれはとても良いニュースです。
また、工場で生産しているアイテムについては、言うまでもなく私が現場に介入する必要がありません。
縫製のプロがいるからこそ、現場を離れて大丈夫という安心感があるわけです。
2. 現場がわかるからこそ離れられる

縫うこと(現場)をある程度わかっているからこそ、自信を持つことができて経営に専念できる、というのが2つめの理由です。
私はハンドメイドから始めて、デザイン、発注、型紙作り、服作りの技術を学び、ECサイトを通してWeb接客をして、サイト運営をして、宣材写真も撮り、発送もする。
こうしたことをひとりで一通りやってきたからこそ、すべての工程でなにが大切か、ポイントがなにかがわかります。
こうしたほうがよりキレイに縫える、こうしたほうがより早く縫える。生地の選び方(水通し)によって生地の特徴がわかり、色が落ちる(インディゴなど)は使わないようにしようと判断もできる。
現場のことを何も知らず経営から入ってしまうと、生地のことがわからないがためにクレームを受けてしまうことがあります。
そしてなにより、私自身がこれまでお客様の声を聞きながら手探りで進んできたからこそ、だからお客様の視点に立ちつつ、縫製現場の人たちに指示を出すことができます。
特に立ち上げ初期の頃は、作った服を自分で着ることもあれば、友だちにあげたりして反応を見るようなこともありました。
そういった一つひとつが、今の「経営に専念できる」という自信につながっている、というわけです。
あなたの“今”はムダじゃない

「将来、服屋さんをやりたい」
そう思って始めた、あなたの好きなこと、やりたいことは、決してムダにはなりません。
最近では「D2C(またはDtoC)」という言葉がここ数年で脚光を浴びています。
D2Cとは、Direct to Consumerの略で、自ら企画、 生産した商品を広告代理店や小売店を挟まず、消費者とダイレクトに取引する販売方法、と定義されています。
ECサイトを中心に、自ら企画・生産したハンドメイド作品をお客様に直接届ける方法は、結果的に手法としてはD2Cと現在は分類わけされ、高品質なものを低価格で提供できる方法のひとつとして定着しています。
この記事で今回ご紹介した方法は、個人から始める小さなアパレルブランドを経営するようになるまでのストーリーでした。
小学生の頃から家庭科で習ったものを家で作ることが好きだった当時の私。本格的に服を作り始めたのは子どもができてからです。
子ども用の、動きやすくて洗濯に耐えられる服はどうすればできあがるか。そんなことを考えながらミシンと向き合った日々は、学校で知識として学ばない代わりに、現場での体感覚で服作りを習得する機会となりました。
現場から始まる、小さなアパレルブランドを経営する──。
そのためには、現場を知っていることと、人に任せられるだけの資金力(売上)があることが経営に専念できるための要素として、私の場合には大切だった。
そういうことになるのかなと思っています。

yumiko
